車椅子で外出し、移動する際に気をつけたいのが、道にある「段差」です。ちょっとした高低差でも、車椅子で乗り越えるのは難しく、無理に進もうとすれば転倒や車椅子から転落する危険があります。
ここでは、安全に楽しく車椅子でお出掛けするために、知っておきたい段差の乗り越え方や下り方をご紹介します。
車椅子で移動中に段差を見つけたら確認しておきたいこと
街の中には、目で見てすぐにわかる大きな段差以外に、注意深く観察しなければ気づかないような段差が隠れています。
例えば、ブロックが敷き詰められた石畳の表面と目地とのあいだには隙間がありますし、横断歩道の境界部にある段差なども、車椅子ですと前輪が引っかかり、思わぬ事故につながりかねません。
こうした段差や、わずかな傾斜を外出先で発見したら、まずは「高さ」「数」「奥行き」を確認しましょう。
段差の高さを確認する
車椅子の場合、1cm以上の段差があると前輪が引っかかり、自力での移動が難しくなるといわれています。無理に乗り越えようとすると、体が前方へ放り出されたり、車椅子ごと横に倒れたりする危険があるため、まずは高さがどの程度あるのかを確認してから乗り越える準備をしましょう。
段差の数と奥行きを確認する
段差がある場所では、段差の数と前後の奥行きも併せてチェックしましょう。
介助者がいる場合、段差が1段までであれば、車椅子の後方にある「ティッピングレバー」を踏んで押し進めることで、前輪を浮かせて乗り越えることができます。
しかし、段差が2段以上ある場合は、1段目に車椅子の前輪と後輪をのせられるだけの奥行きがないと、前輪を持ち上げたときに後輪を支えることができません。また、2段目が高いと、足がひっかからないよう前輪を高く持ち上げる必要があるため、1段目には足先から後輪までをカバーできるだけの奥行きが必要です。
段差に十分な奥行きがない場合は、介助者が数人で車椅子を持ち上げなければなりません。
目的地周辺の道路に段差があることがわかったら、介助者の有無や介助を担当する方の体力などから、対応できるかどうかを判断するといいでしょう。
介助者といっしょでも段差を乗り越えるのが難しい場合は、下記の手段を検討します。
- 段差がある部分の所有者や責任者などにスロープが設置できるかを確認の上、持ち運べるスロープをレンタルする
- 目的地や目的地までのルートをバリアフリー対応のルートに変更し、迂回する
- 目的地を変更する
また、雨や雪、風が強い日の車椅子の移動は危険が増すため、急ぎの用事でなければ日程の変更をおすすめします。
車椅子による段差の上り方
高さなどから、車椅子で段差を上ることができると判断したら、下記の方法を実践していきましょう。介助者の有無や車椅子の種類など、シチュエーションごとに紹介します。
車椅子使用者だけで段差を上る場合
車椅子使用者だけで外出する場合は、無理をしないことが何よりです。一人で乗り越えるのが難しいと思ったら、駅係員や周囲の方にサポートを頼んで持ち上げてもらうか、スロープを設置してくれるよう依頼することをおすすめします。
介助者がいて車椅子で段差を上る場合
介助者は、車椅子に乗っている方の状態をよく確かめ、「少し傾けますね」「今から動きますよ」といった声掛けをしながら、次の手順で車椅子を進めます。
<車椅子で段差を上る手順>
- ティッピングレバーを足で踏み、てこの原理で前輪を浮かせる
- 車椅子使用者の足が段差に引っかからないよう、前輪部分が段差の上に来るまで車椅子を傾け、そのまま前進する
- 前輪を段差の上にのせて車椅子を前進させ、後輪を段差に滑らせるようにして持ち上げる
電動車椅子使用者だけで段差を上る場合
電動車椅子は手動のものに比べて機動力があり、ちょっとした段差なら乗り越えられます。ただし、万が一段差に引っかかってしまうと事故になるリスクが高いため、無理をせず、慎重に操作してください。
段差の高さや数、奥行きなどを見極め、上るのに問題なさそうだと判断したら、段差の前でいったん停止し、段差に対して前輪が直角になるようにして、慎重に上ります。転倒防止バーが設定されていることを確認してから、焦らずに操作しましょう。
介助者がいて電動車椅子で段差を上る場合
電動車椅子で乗り越えられない段差にあたった場合は、周囲の方や同行者に頼み、下記の手順で介助をしてもらうといいでしょう。
<電動車椅子で段差を上る手順>
- 前輪を持ち上げて段差の上にのせる
- 少し前進し、後輪をのせてもらう
このとき、介助者が電動車椅子を持ち上げたり下ろしたりするタイミングと、電動車椅子を操作するタイミングを合わせることが重要です。
また、電動車椅子を利用する際に注意したいのは、バッテリーの状態です。移動中にバッテリーが切れると、手動の車椅子に比べて重量があるため、移動の負荷が倍増してしまいます。バッテリーの状態を定期的に確認するとともに、出掛ける前に満タンになるよう充電しておきましょう。
車椅子による段差の下り方
次に、車椅子で段差を下りる方法です。こちらも、介助者の有無や車椅子の種類など、シチュエーションごとに分けて見ていきましょう。
車椅子使用者だけで段差を下りる場合
車椅子使用者だけで段差を下りるのは非常に危険です。小さな段差の場合は、体が前に放り出されないようにゆっくりと、地面にタイヤが設置した衝撃をやわらげるように下りましょう。
段差が大きい場合は絶対に無理をせず、介助を依頼します。段差を解消するスロープが設置されていても、傾斜がきついと事故につながるため、下りられるかどうかを判断し、厳しいと思ったら介助を頼んだほうが無難です。
介助者がいて車椅子で段差を下りる場合
車椅子に介助者がいる場合は、下記の手順で段差を下ります。
<車椅子で段差を下りる手順>
- 車椅子を段差に対して後ろ向きにし、まずは後輪をゆっくりと下ろす
- ハンドルに力を入れて前輪を持ち上げたまま後ろに引く
- 車椅子使用者の足が段差に引っかからない位置まで下りたら、前輪をゆっくり下ろす
なお、急に車椅子が後ろ向きになると恐怖を感じる方が多いため、介助者はまえもって車椅子の方に「段差があるので、いったん後ろ向きにしますよ」というように、「なぜ向きが変わるのか」を明確に伝えましょう。階段などの段差が連続する箇所は、3~4人で車椅子を持ち上げて運ぶようにすると安全です。
電動車椅子使用者だけで段差を下りる場合
上りと同じように、段差の高さや数、奥行きなどを見極め、下りるのに問題なさそうだと判断したら、段差の前でいったん停止し、段差に対して前輪が直角になるようにして、慎重に下ります。転倒防止バーが設定されていることを確認してから、焦らずに操作しましょう。
段差の傾斜がきつい場合は無理をせず、介助を頼む判断をすることも大切です。
介助者がいて電動車椅子で段差を下りる場合
介助者用の電動ユニットを装着した車椅子は、下り坂で自動的にブレーキがかかるものがあります。だからといって過信はせず、スピードを出すのは控えてください。また、手動に切り替えても、完全な手動式よりも重量があるため、介助者は車椅子の重さに引っ張られないよう、下半身にしっかり力を入れて動かすようにします。
電動車椅子の場合、坂道を下りているときにバッテリーが切れると、車輪がロックして倒れてしまうことがあります。乗車前だけでなく、段差や長い坂道を下りる前にも、バッテリー残量を確かめるようにしましょう。バッテリー残量が少なく、予備バッテリーもない場合は、段差が少ない別のルートを検討するなどしてください。
段差には慎重に対応し、無理のない車椅子の操作を心掛けよう
車椅子でお出掛けをする場合、事故のリスクが高い段差や坂道の利用はできるだけ避けたいものです。やむをえず段差や坂道を乗り越える際は、慎重に対応しましょう。
また、雨や雪、風が強い日の車椅子の移動は危険が増すため、天候が悪い場合は日程変更をおすすめします。
だれでも東京を活用して、無理のないお出掛けの計画を立ててください。