近年、公共交通機関や駅、公共施設、商業施設など、さまざまな場所で見かけるようになった「バリアフリートイレ」。誰を対象としたどんなトイレなのか、どんな目的で設置されているのか、意外と知らない人も多いのではないでしょうか。
ここでは、バリアフリートイレの概要と設備の内容のほか、利用する際のマナーと必要なときの探し方などについて紹介解説します。
バリアフリートイレとは、あらゆる人が気兼ねなく使えるように設計されたトイレ
バリアフリートイレとは、その人の持つ特性や性別、年齢などにかかわらず、あらゆる人が気兼ねなく利用できるように設計されたトイレのことです。
トイレに対する不安がネックになって外出をためらいがちな高齢者や、障害のある人をサポートする目的で、1994年に施行された「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(通称「ハートビル法」)をきっかけに、これまで「障害者用トイレ」「車椅子専用トイレ」などの名称で整備が進みました。
2000年に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(通称「交通バリアフリー法」)が施行されると、病気や事故などでおなかに「ストーマ(人工肛門・人工膀胱)」を造設しているオストメイトの人や、高齢者、乳幼児連れの人なども利用しやすいトイレの設置が拡大しました。時を経て、機能が拡充されて使用できる対象の人が増えたことから、使用者を限定しない「車椅子使用者対応トイレ」「バリアフリートイレ」といった名称が一般化したのです。
その一方で、こうした多機能トイレに利用者が集中する状況が生じています。そこで、2021年3月に国は「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」を改正し、設備・機能の分散配置や「多機能」「多目的」等の誰でも使えるような名称を使用しないことが示されました。都は、国の動きも踏まえ、福祉のまちづくり条例施行規則上の「だれもが利用できる旨の表示」を 「車椅子使用者用便房の設備及び機能を表示」とする改正を令和3年10月に行いました。
車椅子使用者対応トイレは、出入口と内部の寸法が、手動の車椅子が方向転換できる200cm×200cmを標準とし、電動車椅子が回転できる220cm×220cm以上のスペースを確保することが望ましいとされています。
バリアフリートイレに設置されている設備
バリアフリートイレは、障害や身体的な特性、性別、年齢、国籍、文化などの違いにかかわらず、できるだけ多くの人が同じように利用できる製品やサービス、日常生活の実現を目指す、ユニバーサルデザインの考え方にもとづいて造られています。
ここからは、バリアフリートイレの代表的な機能や設備についてご紹介します。
引き戸式の扉と開閉ボタン
バリアフリートイレの扉は、筋力が弱い人でも簡単に開け閉めができるよう、手動式や電動式の引き戸が採用されています。また、車椅子利用者が押しやすい位置に、開閉ボタンや鍵がついているのも特徴です。
手すり
バリアフリートイレには、足腰に不安がある高齢者や、杖を使用している人、車椅子利用者のために、手すりが設置されています。便座への移乗や手洗い場、オストメイト用の汚物流し台などへ移動する際に使います。
オストメイトに対応した汚物流し台・シャワー設備
病気や事故などにより、おなかにストーマ(人工肛門・人工膀胱)を造設した人をオストメイトといいます。バリアフリートイレには、オストメイトの人の利用にも対応し、排泄物を流せる汚物流し台のほか、ストーマ装具を洗浄できるシャワーなどが備えられている場合もあります。
なお、トイレによっては、汚物流し台やシャワーが設置されていない場合もありますので、ご注意ください。
ベビーチェア
乳幼児を連れた人のためのベビーチェアは、大人が用を足しているあいだ、乳幼児を座らせておくのに便利です。子供が動いても転がり落ちないような設計がされています。なお、ベビーチェアが設置されていないバリアフリートイレもありますので、ご注意ください。
おむつ替えシート・ユニバーサルシート(介助用ベッド)
乳児のおむつを替えるためのおむつ替えシートは、通常、壁側に折りたたまれていることが多く、開くと大人が背をかがめずに作業できる高さの台になります。
また、ユニバーサルシート(介助用ベッド)と呼ばれる大型のシートが設置されたトイレも増えました。おむつ替えシートと違って大人も横になれるため、障害のある方や高齢者などのニーズにも対応できます。車椅子から乗り移りやすい高さに設置されているのもポイントです。
おむつ替えシートと同じく、車椅子やベビーカーの動きを妨げないよう、折りたたんで壁側に収納されていることがほとんどです。おむつ替えシートもユニバーサルシート(介助用ベッド)も、使用後は元の形に折りたたみ、次に使用する人の通行の妨げにならないようにしましょう。
なお、おむつ替えシートやユニバーサルシート(介助用ベッド)が設置されていないバリアフリートイレもありますので、ご注意ください。
着替え台・チェンジングボード
着替え台はチェンジングボードともいい、その名のとおり、着替えをするのに便利な台です。床に近い壁付近にたたんで収納されていることが多く、広げるとフラットなシートになり、安定した場所に子供を立たせることができます。歩行ができるようになった幼児のおむつ替えのほか、オストメイトの人や衣服を汚してしまった場合の着替えなどにも使えます。
なお、着替え台が設置されていないバリアフリートイレもありますので、ご注意ください。
バリアフリートイレを利用する際のマナー
多機能な設備が整っているため、とても便利なバリアフリートイレですが、多くの人が気兼ねなく使うには、最低限守らなければいけないマナーがあります。どのようなことを守るべきか、詳しい内容を見ていきましょう。
一般的なトイレの利用が難しい人を優先する
バリアフリートイレは、多くの人に気兼ねなく利用してもらえるように、あえて「車椅子専用」「障害者用」といった対象を限定する名称を使用していません。そのため、「誰でも自由に使える」と拡大解釈され、一般のトイレが混雑しているときに健常者が利用したり、化粧や着替えなどで利用したりする人もおり、本来の用途で使用したい人が使えないこともあります。
もちろん、緊急時などには健常者も利用できるものですが、通常は「一般的なトイレの利用が難しい人」を優先するようにしてください。
また、オストメイトや妊娠初期の人、性別で区切られたトイレに抵抗がある性的マイノリティの人など、外見からは特徴がわかりにくい人にとっても車椅子使用者対応トイレは大切な場所です。見た目で判断をせずに、さまざまな個性を持つ人がバリアフリートイレを必要としていることを理解しておくことも大切です。
用事が済んだら、すみやかに次の人に譲る
バリアフリートイレを必要としている人は大勢おり、中には尿意や便意を長時間我慢するのが難しい障害を持つ人もいます。用事を済ませた後は、すみやかに次の人へ譲ってください。必要な人が必要なときに使える環境を保つように心掛けましょう。
便座やユニバーサルシート(介助用ベッド)は必ず元に戻す
便座を上げたら、必ず元に戻してください。手や腕に障害がある人の中には、便座を元に戻すことができず、トイレが使えなくなってしまうおそれがあるからです。
また、ベビーシートやユニバーサルシート(介助用ベッド)が出しっぱなしですと、次に使う人のスムーズな利用や移動を妨げますので、使用後は必ず元の形に戻しましょう。
トイレットペーパーは補充できる人が補充する
補充用のトイレットペーパーは、棚やボックスなどに保管されていることがありますが、車椅子から立ち上がることができない人や足腰に不安がある人、手や腕に障害がある人にとっては取りにくいものです。
補充の作業が難なくできる人は、トイレットペーパーがなくなっていた場合、次に利用する人のため、できるだけ補充してから外に出ましょう。
バリアフリートイレの探し方
バリアフリートイレの場所を把握してお出掛けの計画を立てたり、行きたい場所の近くにバリアフリートイレがあるかどうかを調べたりしたいときは、バリアフリーマップや「だれでも東京」が便利です。
バリアフリーマップの活用
バリアフリーマップとは、バリアフリートイレの有無や、通路の段差の情報などをまとめた地図のことです。東京都では各区市町が、データ版や冊子版で提供しています。お出掛け先で地図をもらうか、事前にデータをダウンロードしておくことをおすすめします。
バリアフリーマップについては、下記のページで詳しくご紹介しております。
バリアフリーマップとは?掲載内容や都内23区のマップの特徴を紹介
「だれでも東京」でバリアフリートイレを検索する
「だれでも東京」は、高齢者や障害のある方にも優しい施設の情報をまとめた、東京都の公式サイトです。中でもバリアフリートイレの施設ページでは、一人ひとりの特性に合った条件でトイレが検索できます。
バリアフリートイレの情報を集めて、お出掛け先を探そう
外出先付近のどこにバリアフリートイレがあるのかが事前にわかれば、安心してお出掛けを楽しむことができるでしょう。
ぜひ、「だれでも東京」を活用してバリアフリートイレを検索し、お出掛け先の参考にしてください。
※「だれでも東京」ではバリアフリートイレを「車椅子使用者対応トイレ」で検索できます。
施設ページ(車椅子使用者対応トイレ)